住宅事業本部
賃貸・シニア事業部
賃貸住宅事業二課長 黒田 翔太様
賃貸住宅事業二課 課長代理 金澤 茉実様
企業名 | 野村不動産株式会社 |
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所在地 | 東京都新宿区西新宿1丁目26番2号 |
設立 | 1957年 |
従業員数 | 2,068名(2024年4月1日現在) |
Web |
コニカミノルタ株式会社 プロフェッショナルプリント事業本部
PPH商品企画統括部 商品企画部PP企画推進グループ ソリューションチーム
アシスタントマネージャー 藤原 崇史
コニカミノルタジャパン株式会社 プロフェッショナルプリント事業部
プリントソリューション統括部 メジャーアカウント営業推進部
営業推進1グループ 白井 杏奈
キンコーズ・ジャパン株式会社
DTPセンター 榎宮 元気
大手総合不動産デベロッパーである野村不動産が、賃貸住宅領域で新たに「コリビング賃貸レジデンス」事業に参入し、その第1弾物件として2025年2月に竣工した職住一体の大型賃貸レジデンスが「TOMORE(トモア)品川中延」だ。「コリビング賃貸レジデンス」とは、シェア型賃貸住宅とコワーキングスペースが融合した住宅形態のこと。コロナ禍を経て、リモートワークや副業など、特に若い世代の価値観や働き方が大きく変化する中、従来の単身世帯向け住宅のあり方に新たな選択肢を提供するプロジェクトだ。
プロジェクトの立役者である野村不動産の黒田氏は「次世代の社会人単身者の"生活体験"をアップデートしたい」という思いから、一から新しいコンセプトの住まいを設計。単に住むだけの場所ではなく、入居者同士の交流や体験を重視したコミュニティ運営にも力を入れている。
「『TOMORE』というブランド名には『共に(TOMO)、もっと(MORE)豊かな生活体験』という願いを込めています。野村不動産のデベロッパーとしての強みを活かした100室以上の大規模な物件だからこそ実現できる充実した共用空間と、専属の運営スタッフ『コミュニティオーガナイザー』による運営サービスを提供することが特徴です」(黒田氏)
「TOMORE」のマーケティング戦略では、賃貸マンションの一般的なマーケティングとは異なるアプローチ、具体的には公式Webサイトを起点としたLINEやInstagramなどのSNSを活用する施策が展開された。
マーケティング領域を担当する金澤氏によると、「TOMORE」のような新しいタイプの住まいの場合、従来の不動産情報サイト上ではなかなか検索してもヒットしづらいため、独自のマーケティング戦略の確立が必要だったという。特に若い世代をターゲットにしていることからも、SNSを中心としたオンラインマーケティングに注力した。
「新生活が始まる4月に向け、3月末までには一定水準の入居申込をいただくことが重要な課題でした。現地内覧会を開始したのが2025年2月でしたので、内覧会予約数を最大化させるため、その数ヵ月前から内覧会予約に関する告知を始めています。
しかし、早期からマーケティング施策を開始したことで、内覧会の予約から現地内覧までの期間が長くなり、お客さまが予約したことを忘れてしまう、いわゆる“当日キャンセル”のリスクが高まるという、新たな課題が浮上したのです」(金澤氏)
繁忙期の内覧会は1日あたり最大40名程度が想定され、特に週末は多くの枠を設けていたが、予約したにもかかわらず来場しない当日キャンセルが発生すると、スタッフの対応リソースが無駄になるだけでなく、他の潜在顧客の機会逸失にもつながる。この課題に対し、リマインド送付などの対策を講じる予定だったが、より効果的な施策が求められた。そこで注目したのが、コニカミノルタが提供する「AccurioDX(アキュリオ ディーエックス)」を活用したパーソナライズDMの送付だった。
「DMとは、対象者全員に同じ内容を送るもの」とよく認識されがちだが、パーソナライズ印刷技術を活用することで対象者一人ひとりに合わせたDMを作成することができる。AccurioDXは、コニカミノルタが提供するパーソナライズ印刷技術を活用した紙マーケティングソリューションであり、読み手の一人ひとりに個別最適化した紙販促物の企画・制作から分析に至るまで一気通貫で実行できるサービスだ。
送付対象である顧客の属性や興味関心に応じて細かくパーソナライズされたDMを作成でき、さらに個別二次元コードを付与することで、誰がいつDMを見たかという効果測定も可能になる。
「デジタルマーケティングの施策に加え、DMというオフライン施策を取り入れたいと思い、パーソナライズDMが実現できる『AccurioDX』を採用しました。コニカミノルタさんの提案を受け、DMを単なる広告としてではなく、ユーザーとのタッチポイントとして機能させるという考え、そして一方通行の情報伝達ではなく、双方向的なコミュニケーションが可能な仕組みは魅力的でした」(金澤氏)
DMのデザイン設計では、「TOMORE」が描くブランドイメージとクリエイティブをつなぎ、ミーティングを重ねるなかでDMのデザインが固まっていったと担当の藤原は話す。
「DMの設計には、AccurioDXとしての知見が反映されています。予約者の属性や現在の住まいで分類いただき、さらに予約時のアンケートで把握されていた『最も魅力に感じたポイント(立地・コンセプト等)」に応じて、合計5パターンのデザインを用意しています。DMには2つのパターンのデザインを組み合わせることができましたので、合計で10パターンとなりました」(藤原)
また、DMのデザインと印刷をキンコーズ・ジャパンの榎宮が担当しており、これまでに蓄積されてきた印刷経験が反映されている。
「今回のDMは単なるお知らせではなく、『インビテーション(招待状)』というイメージでDMのデザインを作成しました。メインターゲットである20~30代にデザインを寄せ、ちょっと明るい雰囲気かつ抜け感を意識しています」(榎宮)
DMには予約者の氏名だけでなく、最寄り駅からのアクセス方法、さらに細かいDMの文面のトーンなど、一人ひとりに合わせた情報が盛り込まれた。さらにDMを持参した方には「TOMORE品川中延」で提供予定のONIBUS COFFEE社コラボレーションのオリジナルブレンドコーヒーのドリップバッグをプレゼントするという特典も用意された。こうしたDMの持参を促す施策に合わせる形で、一般的な成果指標である「二次元コード遷移率」に加え、「DM持参率」を計測対象にしている。
今回のプロジェクトにおけるもうひとつの特徴が、内覧予約の開始時期までに間に合わせるというスケジュールが決められていたことだ。野村不動産とコニカミノルタ、そして印刷を担当するキンコーズ・ジャパンの各社が高い熱量で連携し、スピード感を持って進めたことが成功の鍵となった。
「年末から年始にかけての短期決戦でしたが、顧客属性に基づいたメッセージングや手に取って見たくなるデザインを緻密に設計しながら迅速に対応できた実感があります。特に野村不動産様の熱量がとても高く、情報共有や意思決定のスピードが早かったことで、我々も最大限のアウトプットが発揮できたと考えています」(藤原)
AccurioDXを活用して内見予約の約2週間前に送付されたパーソナライズDMは、200名超に対して配信され、予約変更用の二次元コードへの遷移も確認されている。不動産賃貸管理向けのレポートによると、住宅不動産業界では内見予約のうち実際の来訪は約半数にとどまる、とする実態が示されている。
内見予約の当日キャンセルは、長年にわたっての課題であり、現場の業務効率や収益にも少なからず影響を与えてきた。「予約があっても、当日になって連絡もなく来訪されないケースは少なくありません。当日キャンセルの可能性があっても現場のスタッフは案内準備を進めなければならず、人的リソースが無駄になってしまうケースもあります。さらに当日キャンセルが続くと、担当者のモチベーションや業務効率にも悪影響を及ぼす可能性もあります。」と金澤氏は強調する。
そうした背景から、事前に内覧予定者の意思確認を促し、当日キャンセルを防ぎ、都合が悪くなった場合は日程変更を促すことができた点は、非常に大きな意味を持っている。
また、DM持参率は約20%に達しており、日本ダイレクトメール協会が公表している「DMをみて店に出かけた」とするDM反応率(おおむね数%)と比べても、パーソナライズによる効果が際立っていた。
「特に2月下旬から3月上旬にかけて送付したDMについては現地内覧会の回収率が高い傾向にありました。さらにこの時期は3月末までの入居を希望する方の割合が高く、タイミングとしても効果的と言えます。
DMを受け取り、実際に来場された方からは『もらってうれしかった』『デザインが素敵だった』といった高評価の声がありました。単なるリマインダーではなく、インビテーションとしての役割を果たし、顧客体験を高めることができたと思います」(金澤氏)
当初想定していた20〜30代のメインターゲット層にしっかりリーチし、実際に会社員、個人事業主、起業家など多様な職業の方が入居している。また、シェア型住宅の経験がない方が約半数を占めており、新たな顧客層の開拓にも成功したと言えそうだ。
「私が想像していた以上に、ターゲット層の方に紙の施策が届いていたことが驚きでした。デジタルネイティブな世代であっても、お客さま目線で個別にデザインされたDMであれば、効果的にリーチできるのだと、今回の取り組みで学びました」(金澤氏)
また、デジタル技術の知見と印刷をかけあわせることにより、かつては高コストで実現困難だった細かな顧客セグメントへのDMが可能になっている点も重要だ。今回のプロジェクトでは、顧客の属性や興味関心に応じた10パターンのデザインを準備しているが、これをデジタルマーケティングで実現する場合、複数のランディングページを作成する必要があるため、より高いコストがかかってしまう。こうした成果を踏まえ、黒田氏にAccurioDXとの取り組みを評価いただいた。
「AccurioDXの取り組みではプロジェクトの成功にコミットいただいたおかげで、なんとか大きな山を一緒に越えることができ、本当にありがたかったです。『TOMORE』という新シリーズの第1弾をすごく良いかたちで船出する事ができたと思います」(黒田氏)
野村不動産は今後も「TOMORE」ブランドの拡大を計画しており、来年の春には都内で新たな物件のオープンを予定している。同社の3ヶ年計画においても、「TOMORE」を含む賃貸住宅は重点投資領域のひとつとして位置付けられており、今後の成長が期待されている。
マーケティング戦略についても、今回の経験を活かした施策を検討中とのことだ。金澤氏は「「TOMORE品川中延」開業後の2、3ヶ月で走りながら試行錯誤してきた施策を振り返り、何が効果的で、何がそうでなかったのかを精査した上で、今後の方針を定めていきたい」と話す。
特にオフラインマーケティングについては、今回のAccurioDXの成功を受け、新たな切り口の施策を模索しているという。ますますペーパーレス化が進む現代だからこそ、紙媒体の価値が再評価されつつある。情報過多の時代において、お客さま自身に関連する情報だけを効率的に得たいという消費者ニーズに応える手段として、パーソナライズDMには大きな可能性があると言えそうだ。